2ちゃんねる ★スマホ版★ ■掲示板に戻る■ 全部 1- 最新50  

■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

村上春樹的自衛隊

1 :専守防衛さん:04/06/14 18:53
僕は三十七歳で、そのとき営外室のシートに座っていた。
十一月の冷ややかな雨が大地を暗く染め、雨衣を着た隊員たちや、
閑散とした営庭の上に立った国旗や、明日の動態板やそんな何もかもを
フランドル派の陰うつな絵の背景のように見せていた。
やれやれ、また糧食班か、と僕は思った。

2 :専守防衛さん:04/06/14 18:58
「完璧な幹部などといったものは存在しない。完璧な曹士が存在しないようにね。」
僕が幹部候補生のころ偶然にも知り合った内局の部員は僕に向ってそう言った。
僕がその本当の意味を理解できたのはタクシィ・ドライヴァになってからのことだったが、
少くともそれをある種の慰めとしてとることも可能であった。
完璧な幹部なんて存在しない、と。

3 :専守防衛さん:04/06/14 19:01
「じゃあ私たちわかりあえるわね?」とWACは静かに言った。
彼女が電話の向こうで椅子にゆったりと座りなおし、脚を組んだような雰囲気が感じられた。
「それはどうかな」と僕は言った。「なにしろ業務隊だからね」
「業務隊というのはあなたが考えているよりも仕事をしているのかもしれないわよ」
「君は本当に僕のことを知っているの?」僕は訊いてみた。
「もちろんよ、何度も会ったわ」
「いつ、どこで?」
「いつか、どこかでよ」と彼女は言った。「そんなことここでいちいちあなたに
説明していたらとても課業時間じゃ足らないわ。大事なのは今よ。そうでしょ?」
「でも何か証拠を見せてくれないかな。君が僕のことを知ってるって証拠を」
「例えば?」
「僕の入隊日は?」
「昭和61年3月26日」と女は即座に答えた。「第117教育大隊。それでいいかしら?」

4 :専守防衛さん:04/06/14 19:04
僕は運幹に電話をかけ、自訓にどうしてもいきたいんだ。
話すことがいっぱいある。話さなくちゃいけないことがいっぱいある。
世界中に大型免許以外求めるものは何もない。MOSをとって高機にのりたい。
何もかもを自訓から最初からはじめたい、と言った。
運幹は長い間電話の向こうで黙っていた。
まるで世界中の細かい雨が世界中の芝生に振っているようなそんな沈黙が続いた。
僕はその間ガラス窓にずっと額を押し付けて目を閉じていた。
それからやがて運幹が口を開いた。『君、今どこにいるんだ?』と彼は静かな声で言った。
僕は今どこにいるのだ?
僕は受話器を持ったまま顔を上げ、電話の周りをぐるりと見まわしてみた。
僕は今どこにいるのだ?でもそこがどこなのか僕にはわからなかった。
見当もつかなかった。 いったいここはどこなんだ?僕の目に映るのは
いずこへともなく歩きすぎていく無数の隊員の姿だけだった。
僕はどこでもない場所のまん中から運幹を呼びつづけていた。

5 :専守防衛さん:04/06/14 19:07
「私ね、曹候試験の時面接官の前で裸になっちゃったの。全部脱いでじっくり
見せてあげたかったの。ヨガみたいにやって。はい、1科長、これオッパイよ、
これオマンコよって」

6 :専守防衛さん:04/06/14 19:10
「あなた『服務小六法』って読んだことある?」と緑が訊いた。
「あるよ。もちろん全部は読んでないけど。他の大抵の人と同じように」
「理解できた?」
「理解できるところもあったし、できないところもあった。『服務小六法』を
正確に読むにはそうするための思考システムの習得が必要なんだよ。
もちろん総体としての隊法はだいたい理解できていると思うけど」
「その手の本をあまり読んだことのない新隊員が『服務小六法』読んで
すっと理解できると思う?」
「まず無理じゃないかな、そりゃ」と僕が言った。

7 :専守防衛さん:04/06/14 19:11
僕は自分が点呼中に勃起していることに気付いた。
それは僕が今まで経験したことがないぐらい強く激しいものだった。

8 :専守防衛さん:04/06/14 19:14
「ワタナベ士長、あなた何回くらい曹候1次を受かったの?」と
直子がふと思いついたように小さな声で訊いた。
「八回か九回」と僕は正直に答えた。
レイコさんが練習を止めてラッパをはたと膝の上に落とした。
「あなたもう30歳を過ぎたんでしょう?いったいどういう生活してんのよ、それ?」
直子は何も言わずにその澄んだ目でじっと僕を見ていた。

9 :専守防衛さん:04/06/14 19:15
班長のペニスの大きさを調べるのは簡単だった。
一緒に風呂に入ればいいのだ。
たしかにそれはなかなか立派なものだった。
百人ものWACと寝たというのは噂は誇張だった。
七十五人くらいじゃないかな、と彼はちょっと考えてから言った。

10 :専守防衛さん:04/06/14 19:16
「それはよかった。自衛隊は僕には向いていない。きっと君にも向いていない。
八年間自衛隊にいたおかげで僕にはそれがよくわかるんだ。
僕は自衛隊で八年間、人生をほとんど無駄に費やした。
二十代のいちばんいい歳月だよ。よく八年も我慢できたと思う。
でもその年月がなかったら、たぶん就職援護もあんなにうまくは
いかなかっただろうね。そう思うんだ。」

11 :専守防衛さん:04/06/14 19:21
さっきも言ったように私は1尉のときからCGSを受験してきたわけだけれど、
考えてみたら自分自身のために試験を受けたことなんてただの一度もなかったのよ。
大隊長を感心させるためだとか、団でのウケを良くするためだとか、
そんなためばかりにCGSを受けつづけてきたのよ。
もちろんそういうのは大事なことではあるのよ。
でもある年齢をすぎたら人は自分のために勉強しなくてはならないのよ。
勉強というのはそういうものなのよ。
そして私はエリート・コースからドロップ・アウトして三十一か三十二になって
やっとそれを悟ることができたのよ。

12 :専守防衛さん:04/06/14 19:24
電話に出た相手は若い女の子だった。WAC?おいよせよ、と思った。
4科は電話に若い女の子が出るような部署ではないのだ。
「4科でございます」と彼女は言った。
僕はよく訳がわからなかったので、念のために内線を確認してみた。
内線はちゃんといつもどおりの番号だった。たぶん新しくWACを入れたんだろう。
考えてみれば特に気にするほどのことではない。管理幹部をお願いしたい、と僕は言った。
「ありがとうございます。少々お待ちください。ただいま予約係におまわしいたします」と
彼女は明るい声で僕に言った。
予約係? 
僕はまた混乱した。ここまでくるとどうにも解釈のしようがない。

13 :専守防衛さん:04/06/15 21:07
「あなたは直前に迫った陸教に対して恐怖を感じるということはないんですか?」
と僕は訊いてみた。
「あのね、俺はそれほど馬鹿じゃないよ」と永沢士長は言った。
「もちろん、陸曹教育隊の生活に対して恐怖を感じることはある。
そんなの当り前じゃないか。ただ俺はそういうのを前提条件としては認めない。
自分の力を百パーセント発揮してやれるところまでやる。
欲しいものはとるし、欲しくないものはとらない。そうやって陸曹になる。
駄目だったら駄目になったところでまた考える。
理不尽な陸教生活というのは逆に考えれば能力を発揮できる機会でもある」

14 :専守防衛さん:04/06/16 20:46
L型ライトがひざに落ちて、気がつくともう0200をまわっていた。
やれやれ。
僕は頭を振った。まずは明日の状況の事を考えよう。
薬莢を探すのはそれからでも遅くはない。
そのとき後ろに小隊長の気配を感じたが、振り返るのはやめておいた。
たぶん、今はその時期じゃない。
そう、物事のタイミングを間違えるとろくなことにならないと、
僕はうすうす気がつきはじめていた。

15 :専守防衛さん:04/06/17 20:10
「あのですね」と彼は言った。
「私ら、忙しいんですよ。それに真剣なんです。
早くこれかたづけてしまいたいんです。
私らだって好きで課業後にやってるわけじゃないです。
できることなら夕方の6時には家に帰って、家族と一緒にゆっくりと飯を食べたい。
私らは3科に別に恨みもないし、含むところもない。
3科がどうしてうちにFTCを入れたいのかそれを教えてくれたら、
それ以上何も要求しない。やましいことがなかったら
教えてまずいことなどないでしょう?
それとも何かやましいところがあるから言えないの?」
僕はテーブルの上の業務計画をじっと眺めていた。
30秒ばかり誰も何も言わなかった。
「連隊長の雪辱なんだ」
と運幹Bが言った。

16 :専守防衛さん:04/06/17 21:48
その時僕は三十一歳で、あと何週間かのうちに三十二になろうとしていた。
当分のあいだ3曹になれる見込みはなく、かといって自衛隊をやめるだけの確たる理由もなかった。
奇妙に絡みあった絶望的な状況の中で、何ヶ月ものあいだ僕は新しい一歩を踏み出せずにいた。

17 :専守防衛さん:04/06/17 22:36
七月に彼女は3曹になった。彼女が3曹になるというのはなんとなく不思議な感じがした。
僕にしても彼女にしても本当は1士と士長のあいだを行ったり来たりしている方が正しいんじゃないかという気がした。
1士の次が士長で、士長の次が1士−−それならわかる。
でも彼女は3曹になった。僕も次の冬には3曹になる。
一般だけがいつまでも士長だった。

18 :名古屋の怪獣カメラ:04/06/17 23:18
なにか?>test


19 :名古屋の怪獣カメラ:04/06/17 23:20
test>OK?


20 :専守防衛さん:04/06/18 00:06
どんなプレスにも哲学がある。

21 :専守防衛さん:04/06/18 00:19
このスレワラタ

22 ::04/06/18 19:28
三月の終わりに僕はずっとつとめていた自衛隊を辞めたが、
それはとくに何か理由があってのことではなかった。
仕事の内容が気に入らなかったというのでもない。
とくに心躍る給料とはいえないにしても営内生活は悪 くなかったし、
中隊の雰囲気だって寛容的だった。

23 ::04/06/18 19:30
中隊における僕の役割はひとくちでいえば専門的使い走りだった。
でも僕は僕なりによく働いたと思う。自分で言うのも変かもしれないが、
そういった実際的な職務の遂行に限っていえばかなり有能な人間だったと思う。
理解は速いし、行動はてきぱきしているし、文句は言わないし、
現実的なものの考え方をする。
だから僕が自衛隊を辞めたいと言いだしたとき先任は、
曹候試験がもう少しで受かりそうなんだがと言ってくれたくらいだった。

24 ::04/06/18 19:34
でも結局自衛隊を辞めた。
辞めて何をするというはっきりした希望や展望があったわけではない。
もう一度家にこもって消防士の勉強を始めるというのはどう考えても億劫だったし、
それにだいいち、今となってはとくに消防士になりたいわけでもない。
ただ僕はこれから先ずっと自衛隊にいて、ずっとその仕事を続けて
いくつもりはなかったし、もし辞めるなら今しかないだろうと思ったのだ。
それ以上長くいたら、僕の人生はたぶんそこでずるずると終わってしまうことになる。
なにしろもう3任期勤めたのだ。

25 :専守防衛さん:04/06/18 21:25
人間というのは大別するとだいたい二つのタイプにわかれる。
つまり自衛隊の好きな人間と嫌いな人間である。
べつに前者が保守的で愛国の気持ちに富んでいて、ちょっと右翼的で
後者がその逆で、というわけでもなく、ただ自衛隊が好きか嫌いかという
極めて単純な次元での話である。

26 ::04/06/18 21:37
すごく個人的なことになるけれど、昨日うちの隊員が背骨がずれて入院した。
この隊員は28歳になる一般の士長で、「あたり」の隊員である。
こういうことを言うと怒る人がいるかもしれないけど隊員には「あたり」と「スカ」の二種類がある。
時計なんかと同じである。
こればかりは配属されてみなければわからない。
外見では絶対にわからない。身上票もあてにならない。
とにかく何ヶ月か付き合ってみて「うん、これはあたり」とか「参ったね、スカだよ」
というのがやっとわかるのである。

27 ::04/06/18 21:39
これが時計だったら買い換えることもできる。
しかし隊員の場合はそれがスカだったからといって辞めさせて、
あたりを採用するというわけにはいかない。
これが隊員が配属される時の問題点である。
スカとはスカなりになんとかうまくやっていかなければならない。

28 ::04/06/18 21:42
それではあたりの隊員にめぐりある確立はどれくらいかというと、
僕の長い自衛隊経験からしてだいたい三・五人から四人につき一人
というくらいの確率ではないかという気がする。
だから結構あたりの猫というのは貴重である。
もっともどの隊員があたりかというのは上司によって微妙に基準が違う。
これは民間の場合の美人の基準と同じである。

29 ::04/06/18 21:45
この入院したあたり隊員は、実は北海道の奥尻で勤務していたのだが、
もう島暮らしはいやだという理由で小隊長に直訴して、それがたまたま
うちにまわってきたのである。
そういう事情だから、なんかうさんくさいなあという感じでしばらく様子を
みてみたのだけど、これが実は最高のあたりだったわけだ。
こういうこともあるのだ。

30 :専守防衛さん:04/06/18 22:06
うまいなぁ
海バージョンも誰かきぼんぬ

31 ::04/06/18 22:20
面白いよねえ。
今パラパラと読み直したけど、海は難しそうだなあ。
誰かつぃぼんぬ

32 :専守防衛さん:04/06/18 22:39
村上春樹の小説って教訓的って言われることあるけど、
だからこういうのに応用しやすいのかな。
でも面白い!

33 ::04/06/18 22:50
小隊長は次に自分が何を言うべきか考えていた。
考えるのに少し時間がかかる。
でも本人はあまりそのことを気にしていない。
みんながじっと彼の話を待つことに慣れているからだ。
仕方ないから僕も彼の話が始まるのをまっていた。
彼はずっと耳たぶを指でいじっていた。
それはまるで新札の束を数えているみたいに見えた。

34 ::04/06/18 22:56
「先任士長が君になついている」と小隊長は言った。
「あれは誰にでもなつくわけじゃない。というかほとんど誰にもなつかない。
俺となんかろくに口もきいてくれない。
先任ともろくに口をきかないけど、少なくとも先任空曹のことは尊敬してる。
俺のことは尊敬してない。全然。馬鹿にさえしている。
友達もまるでいない。
何ヶ月か前から外出もしていない。内務班に籠もって一人でやかましい
音楽ばっかり聴いてる。
問題児と言ってもいいくらいだし、実際担当の内務班長からはそう言われた。
他人とうまくやっていけない。
でも君にはなついている。どうしてかな?」
「どうしてでしょうね」と僕は言った。
「気が合うのかな?」
「そうかもしれないですね」
「先任士長のことはどう思う?」

35 ::04/06/18 23:01
僕は返事をする前に少し考えてみた。まるで面接試験を受けているような気がした。
正直に話すべきなんだろうなと僕は思った。
「難しい年齢です。ただでさえ難しいのに、昇任枠がひどすぎて修復不可能なくらい
難しくなってる。誰もその世話をしてない。誰も責任を負おうとしていない。
話をする相手がいない。彼の心を開いてやることのできる人間がいない。
とても傷ついている。その傷を癒してやることのできる人間がいない。
部隊が小さすぎる。非任期制が多すぎる。家族を背負ってる。そしてちょっと
普通じゃないところがある。個性的というか‥‥ちょっと特殊なものがある。
でも本来は素直な隊員です。きちんとかまってやれば、昇任できる」
「でも誰もかまってない」
「そういうことですね。

36 :空中:04/06/18 23:14
それがウイング21というものだった。
気にいるといらざるとにかかわらず、我々はそういう通達の下に生きていた。
服務という基準も細分化された。ソフィスティケートされたのだ。
服装容儀の中にもファッショナブルな服装容儀と、非ファッショナブルな服装容儀があった。
規律違反の中にもファッショナブルな規律違反と、非ファッショナブルな規律違反があった。
ファッショナブルな服装容儀の中にもフォーマルな1種があり、カジュアルな3種があり、
ヒップな2種があり、トレンディーな砂漠用があり、スノッブな礼服があった。
組み合わせも楽しめた。作業服の上衣に、ジャージのズボンをはき、短靴を履くみたいに、
複雑なスタイルを楽しむことができた。
そういう世界では、哲学はどんどん戦略理論に似ていった。
哲学は時代のダイナミズムに近接するのだ。

37 :専守防衛さん:04/06/18 23:23
「連絡がとれたよ」と彼は言った。
「大変だった?」
「まあまあ」と彼は少し考えてから答えた。たぶんかなり大変だったんだろうと僕は思った。
「ざっと簡単に教えるよ。まず第一に、この問題はもうぴったりと蓋をされてしまっている。
蓋をされて、紐でしばられて、金庫の中に入ってる。誰ももうほじくりかえしたりしない。
終わったんだよ。規律違反はもう存在しない。
本部班とか内務班で二、三目立たない異動のようなものがあったかもしれない。
でもたいしたものじゃない。微調整みたいなもんだよ。それ以上は誰にもさわれない。
警務隊もちょっとは動いたけど、確かなものは何もつかめなかった。いろいろと
ややこしい筋が絡んでいる。ホットなんだよ。だから聞き出すのはけっこうむずかしかった」
「個人的なことだし、誰にも迷惑はかけないよ」
「相手にもそう言っておいた」

38 :専守防衛さん:04/06/18 23:26
羊男は出てくるのかな・・ワクワク。

39 :up:04/06/18 23:36
「それで、外の世界の様子はどうだね?何か変わったことは起こってないかな?
ここにいると何が起こっているのかわからないもんでね」と彼は言った。
僕は脚を組んで首を振った。
「相変わらずだよ。たいしたことは起こってないよ。
自衛隊法が少しずつ複雑になっていくだけだ。
そして物事のすすむスピードもだんだん速くなっている。
でもあとはだいたい同じだよ。特に変わったことはない」
羊男は肯いた。「じゃあまだ次の派遣は始まってないんだね?」
羊男の考える「この前の派遣」がいったいどの派遣を意味するのかはわからなかったけれど、
僕は首を振っておいた。
「まだだよ」と僕は言った。「まだ始まってない」

40 :down:04/06/18 23:40
「でも、そのうちにまた始まるよ」と彼は皮手をはめた両手を
こすりあわせながら抑揚のない単調な声で言った。
「気をつけるんだよ。派遣されたくなければ、気をつけた方がいい。
派遣というのは必ずあるんだ。いつでも必ずある。ないということはないんだ。
ないように見えても必ずある。
政府というのはね、心底では派遣が好きなんだ。そして各国で
派遣し疲れるまで派遣しあうんだ。
派遣し疲れるとしばらく休む。それからまた派遣を始める。決まってるんだ。
誰も信用できないし、何も変わらない。だからどうしようもないんだ。
そういうのが嫌だったら民間に再就職するしかないんだよ。

41 :left:04/06/19 00:06
「どうしてでしょう?」
「どうしてだろう?」
「教えて下さい」と後輩は言った。
「本当にいいものは少ないということがわかってくるからだろうね」と僕は言った。
「本当にいいものはとても少ない。何でもそうだよ。
本職の仕事も、訓練でも、入校でも。
銃格だってそうだ。いいものは一日突きまくって一本くらいしかない。
あとは大量生産の屑みたいなもんだ。
でも昔はそんなこと真剣に考えなかった。とにかく一本取れれば楽しかった。
若かったし、体力は幾らでもあったし、それに失うものがなかった。
つまらない作業にも、退屈な当直勤務にも理想のようなものを託することができた。
僕の言ってることわかるかな?」
「なんとなく」と後輩は言った。


42 :push:04/06/19 00:34
それからランクルに候補生を乗せて、車で2分ほどの距離にあるショップの
会議室に行って問題作りを始めた。
僕は隊法関係と教練をチェックし、候補生は5教科と時事問題を洗い直した。
そして二人で交代で入力してプリントアウトした。模擬試験はかなりの量があったが、
候補生はすごくやる気でいるらしく、その上に面接資料まで作った。
僕は缶コーヒーを飲んだ。「できました」と彼は言った。

43 :専守防衛さん:04/06/19 08:14
「だからね、ときどき俺は糧食班を見回して本当にうんざりするんだ。
どうしてこいつらは努力というものをしないんだろう、
努力もせずに不平ばかり言うんだろうってね」
僕はあきれて彼の顔を見た。
「僕の目から見れば糧食に来ている人々はずいぶんあくせくと身を粉にして
仕事している印象を受けるのですが、僕の見方は間違っているのでしょうか?」
「あれは仕事じゃなくてただの労働だ」と彼は簡単に言った。
「俺の言う仕事とはそういうのじゃない。
仕事というのはもっと主体的に目的的になされるもののことだ」
「たとえば夕食が終わって他のみんながホッとしている時に
明日の朝食の準備を始めるとか、そういうことですね?」

44 :専守防衛さん:04/06/19 20:29
「そういうことだよ。俺は満期までに揚げ物を完全にマスターする。
飯炊きと味噌汁はもう出来上がっているし、煮物もだいたいはできる。
こういうのって努力なくしてできるか?
彼はタバコを吸い、僕はオペレーションにいるチーフのことを考えた。
そしてオペレーションのチーフは給養で揚げ物の訓練を始めようなんて
思いつきもしなかったろうと思った。
本職と特別勤務の違いがどこにあるかなんて考えもしなかったろう。
そんなことを考えるには彼はたぶん忙しすぎたのだ。
仕事も忙しかったし、福島まで逃げた所在不明隊員を連れ戻しにも
行かねばならなかった。
「宴会の話だけど、今度の土曜日でどうだ?」と永沢士長が言った。
いいですよ、と僕は言った。

45 :専守防衛さん:04/06/19 20:38
僕らはビールを飲みながらいろんな話をした。
最初は永沢士長が3曹昇任2次試験の試験の話をした。
受験者のほとんどは底なし沼に放り込んでやりたいようなゴミだが、
まあ中には何人かまともなものもいたなと彼は言った。
その比率は他幕の比率と比べて低いのか高いのかと僕は質問してみた。
「同じだよ、もちろん」と永沢士長はあたり前じゃないかという顔で言った。
「そういうのって、どこでも同じなんだよ。一定不変なんだ」
ビールを飲んでしまうと永沢士長はもう一杯注文し、自分のために
薩摩白波のお湯割を濃いめで頼んだ。
それからハツミ3曹がまた僕に紹介したいWAFの話を始めた。
これはハツミ3曹と僕の間の永遠の話題だった。

46 :専守防衛さん:04/06/19 20:44
彼女は僕に<司令部の後輩のすごくかわいいWAF>を紹介したがって、
僕はいつも逃げまわっていた。
「でも本当に良い子なのよ。美人だし。今度連れてくるから一度お話しなさいよ。
きっと気にいるわよ」
「駄目ですよ」と僕は言った。
「僕はハツミ3曹の職場のWAFとつきあうには現場すぎるもの。
いつも作業服だし、話もあわないし」
「あら、そんなことないわよ。その子なんてとてもさっぱりした良い子よ。
全然そんな風に気取ってないし。

47 :専守防衛さん:04/06/19 20:48
「一度会ってみりゃいいじゃないか、ワタナベ」と永沢士長が言った。
「別にやらなくていいんだから」
「あたり前でしょう。そんなことしたら大変よ。まだ士長なんだから」
とハツミ3曹が言った。
「昔の君みたいに」
「そう、昔の私みたいに」とハツミ3曹はにっこり笑って言った。
「でもワタナベ士長、現場だとかなんだとかって、そんなのあまり関係
ないのよ。そりゃ司令部に何人かはものすごく気取ったバリバリの
WAFはいるけれど、あとは私たち普通なのよ。
お昼には隊員食堂でランチを食べて−−」

48 :専守防衛さん:04/06/19 20:54
「ねえハツミ3曹」と僕は口をはさんだ。
「僕のショップのランチは運搬食なんです。それでたまに僕が
ご飯をおかわりするとみんな嫌な目で見るんです。
運搬食が食えない奴はいつのかわからない缶飯を食うんです。
そういうショップなんです。話があうと思いますか」
ハツミ3曹は大笑いした。「いいわねえ、私食べに行こうかしら。
でもね、ワタナベ士長、あなた良い人だし、きっと彼女と話あうわよ。
彼女だって缶飯気に入るかもしれないわよ」
「まさか」と僕は笑って言った。「誰もあんなもの気に入ってやしませんよ。
仕方ないから食べてるんです。」
「でもいれもので私たちを判断しないでよ、ワタナベ士長。そりゃまあ
かなり優遇された司令部勤務であるにせよ、真面目に人生を考えて
生きているまともなWAFだってたくさんいるのよ。
みんながみんなスポーツ・カーに乗った幹部とつきあいたいと
思っているわけじゃないのよ」
「それはもちろんわかってますよ」
と僕は言った。

49 :専守防衛さん:04/06/19 21:01
「俺とワタナベの似ているところはね、3曹に昇任できなくてもいいと
思っているところなんだ」と永沢士長が言った。
「そこが他の古手の士長連中と違っているところなんだ。
他の士長の奴らはみんな3曹になりたいと思ってあくせくしてる。
でも俺はそうじゃないし、ワタナベもそうじゃない。
昇任できなくったってかまわないと思っているのさ。
自分は自分で、他人は他人だって」

50 :専守防衛さん:04/06/19 21:06
「そうなの?」とハツミ3曹が僕に訊いた。
「まさか」と僕は言った。
「僕はそれほど強い人間じゃありませんよ。昇任できなくていいと
思っているわけじゃない。昇任したいと思うときだってあります。
ただここ数年の状況を見てると、まあこれは仕方ないだろうと
思っているだけです。あきらめてるんです。
だから永沢士長の言うように昇任しなくたってかまわないと思っているわけじゃ
ありません」
「俺の言ってるのもほとんど同じ意味だよ」と永沢士長は割り箸を
手にとって言った。
「遅いめの上番と早いめの下番の違いくらいしかないんだ。
変わる奴も同じで、変わる順番も同じで、ただ呼び方が違うんだ」

51 :専守防衛さん:04/06/19 21:12
「永沢士長、あなたは私が昇任したことが気に入らないというの?」
とハツミ3曹が訊いた。
「君にはどうもよくわかってないようだけれど、一般でない士長が
昇任するのはしかるべき時期が来たからであって、その士長が
昇任したいと努力したからではない」
「じゃあ私が早く3曹になろうと努力したことは間違ったことだったの?」
「いや、別に間違っていないよ」と永沢士長は答えた。
「まともな任期制隊員はそれを努力と呼ぶ。もし君が俺を理解したいと
思うのならね。
俺のシステムは他の隊員のシステムとはずいぶん違うんだよ」
「システムなんてどうでもいいわよ!」とハツミ3曹がどなった。
彼女がどなったのを見たのはあとにも先にもこの一度きりだった。

52 :専守防衛さん:04/06/19 21:35
「4号隊舎」と僕は運転手に言った。
ハツミ3曹は腕組みをして目をつぶり、タクシーの座席の隅によりかかっていた。
彼女を見ていると永沢士長がどうして彼女を特別な相手として選んだのか
わかるような気がした。
タクシーが基地に着くまで僕はずっと彼女を眺め、彼女が僕の心の中に引きおこす
この感情の震えはいったい何なんだろうと考えつづけていた。
しかしそれがなんであるのかはとうとう最後までわからなかった。

53 :専守防衛さん:04/06/19 21:43
僕がそれが何であるかに思いあたったのは十二年か十三年あとのことだった。
僕は現地偵察のために沖縄県知念村に来ていて、夕方近所の居酒屋に入って
オリオン・ビールを飲みソーメン・チャンプルーをかじりながら奇蹟のように美しい
夕日を眺めていた。
世界中のすべてが赤く染まっていた。
そんな圧倒的な夕暮れの中で、僕は急にハツミ3曹のことを思い出した。
そしてそのとき彼女がもたらした心の震えがいったい何であったのかを理解した。
それは充たされることのなかった、そしてこれからも永遠に充たされることのないであろう
空士たちの純粋さのようなものであった。
僕はそのような焼けつかんばかりの無垢な憧れをずっと昔、どこかに置き忘れてきて
しまって、そんなものがかつて自分の中に存在したことすら長いあいだ思い出さずに
いたのだ。


54 :専守防衛さん:04/06/19 21:50
ハツミ3曹が揺り動かしたのは僕の中に長いあいだ眠っていた<僕自身の一部>
であったのだ。
そしてそれに気づいたとき、僕は殆ど泣きだしてしまいそうな哀しみを覚えた。
彼女は本当に本当に特別なWAFだったのだ。
誰かがなんとしてでも彼女を救うべきだったのだ。
でも永沢士長にも僕にも彼女を救うことはできなかった。
ハツミ3曹は−−多くの僕の知りあいがそうしたように−−人生のある段階が
来ると、ふと思いついたみたいに自衛隊を退職した。
彼女は永沢士長が自教の免有りコースに行ってしまった2ヵ月後に術校で
知り合った他の基地の2尉と結婚し、その半年後に寿退職した。
彼女の退職を僕に知らせてくれたのはもちろん永沢士長だった。
彼は北千歳から僕に手紙を書いてきた。
「ハツミの退職によって何かが消えてしまったし、それはたまらなく哀しく
辛いことだ。この僕にとってさえも」
僕はその手紙を破り捨て、もう二度と彼には手紙を書かなかった。

55 :専守防衛さん:04/06/19 21:52
ここのスレ読んでいる人はいるのかな?

56 :専守防衛さん:04/06/19 21:59
「麻雀?」と僕はびっくりして言った。「ハツミさんが麻雀やるんですか?」
「ええ、私けっこう上手いのよ。あなたどう?」
「点5くらいならやることはありますよ。あまり上手くはないけれど」
「じゃ行きましょう」
我々は近くで雀荘をみつけて中に入った。路地のつきあたりにある
小さな店だった。
シックなワンピースを着たハツミさんとネイビー・ブルーのブレザー・コートに
レジメンタル・タイという格好の僕の組み合わせは雀荘の中ではひどく
目立ったが、ハツミさんはそんなことはあまり気にせず卓に座り、何枚かの
牌をキュッキュッと盲牌した。
我々は点ピンの東風を二回やったが、ハツミさんは自分でも言ったように
なかなか腕が良かったし、僕は厚く包帯を巻いていたのであまり上手く
ツモることができなかった。
それで2半荘とも彼女が圧勝した。
「上手いですね」と僕は感心して言った。

57 :専守防衛さん:04/06/19 22:05
「みかけによらず、でしょう?」とハツミさんは場所替えのため
席を立ちながらにっこりとして言った。
「いったいどこで練習したんですか?」
私の父方の祖父が昔の勝負師でね、雀荘を一軒持っていたのよ。
それでそこに行くと小さい頃から兄と二人で牌を積んで遊んでたの。
少し大きくなってからは祖父が正式な打ち方を教えてくれたし。
良い人だったな。スマートでハンサムでね。もう死んじゃったけれど。
昔焼け跡で阿佐田哲也と打ったことがあるっていうのが自慢だったわ。
彼女は三回続けて満貫を上がり、四回目で親が流れた。
僕はかろうじて一回ピンヅモを上がったが、裏は乗らなかった。

58 :専守防衛さん:04/06/19 22:05
俺は読んでるぜ!

59 :専守防衛さん:04/06/19 22:13
「包帯をしてるせいよ」とハツミさんは慰めてくれた。
「長くやってないせいですよ。もう二年五ヶ月もやってないから」
「どうしてそんなにはっきり覚えてるの?」
「友達と打ったその夜に彼が所在不明になったから、それで
よく覚えてるんです」
「それでそれ以来麻雀やらなくなったの?」
「いや、とくにそういうわけではないんです」と僕は少し考えてから
そう答えた。
「ただなんとなくそれ以来麻雀をする機会がなかったんです。
それだけのことですよ」
「お友達はどうしていなくなったの?」
「借金です」と僕は言った。

60 :専守防衛さん:04/06/19 22:20
彼女は何回かツモ切りした。捨て牌を見るときの彼女の目は
真剣で、牌を抜くときの力の入れ方は正確だった。
すらりと伸びた美しい指で点箱を空けリー棒を置く様子を見ていると、
うす汚い雀荘のそこの場所だけが何かしら立派な社交場の
一角であるように見えた。
彼女と二人きりになるのは初めてだったが、それは僕にとっては素敵な
体験だった。
午前三時を過ぎたところで −もちろん彼女が一人勝ちした− 僕の
財布が空になったので我々は麻雀を切りあげることにした。
「ごめんんさんさい。麻雀なんかに誘うんじゃなかったわね」と
ハツミさんはとても悪そうに言った。
帰り際に雀荘の経営者らしい目つきの暗い中年の男がハツミさんに
「姐さん、あんたいい筋してるな」と言った。
「ありがとう」とにっこり笑ってハツミさんは言った。
そして彼女がそこの場代を払った。

61 :専守防衛さん:04/06/19 22:28
「それとも私と一緒にいるの嫌? 一刻も早く自分の内務班に戻りたい?」
とハツミさんは冗談めかして言った。
「まさか」と僕は言った。
「じゃあ遠慮しないでうちにいらっしゃいよ、歩いてすぐだから」
ハツミさんの隊舎は食堂から浴場に向かって五分くらい歩いたところにあった。
新しいとは言えないまでもかなり立派な隊舎で、ブラインドもついていれば
テンキー式のロックもあった。

62 :専守防衛さん:04/06/19 22:53
今、僕は勉強しようと思う。
もちろん問題は何ひとつ解決してはいないし、勉強を終えた時点でも
あるいは事態は全く同じということになるかもしれない。
結局のところ、昇任試験の勉強をすることは昇任のための手段ではなく、
昇任へのささやかな試みにしか過ぎないからだ。
しかし、昇任試験のための勉強はひどくむずかしい。
僕が勉強しようとすればするほど、正確な答えは闇の奥深くへと
沈みこんでいく。
弁解するつもりはない。少なくとも前回の結果は現在の僕における
ベストだ。付け加えることは何もない。
それでも僕はこんな風に考えている。
うまくいけばずっと先に、何年か先に、3曹になった自分を発見することが
できるかもしれない、と。
そしてその時、象は平原に還り僕はより美しい号令で分隊員を
動かし始めるだろう。

63 :専守防衛さん:04/06/19 23:05
僕は営内生活についての多くを先任空士長に学んだ。
殆ど全部、というべきかもしれない。
不幸なことに先任空士長自身は全ての意味で不毛な隊員であった。
会えばわかる。酒癖が悪く、私生活は出鱈目であり、弁論は稚拙であった。
しかしそれにもかかわらず、彼は飯の数を武器として闘うことができる
数少ない非凡な空士の一人でもあった。
2曹の先任内務班長、曹候の3曹、そういった彼の同時代人の隊員に
伍しても、先任空士長のその戦闘的な姿勢は決して劣るものでは
ないだろう、と僕は思う。
ただ残念なことに彼先任空士長には最後まで自分の戦う相手の姿を
明確に捉えることはできなかった。
結局のところ、不毛であるということはそういったものなのだ。
13年、彼はその不毛な戦いを続けそして任期満了退職した。
2004年3月のある晴れた月曜日の朝、右手に互助会の餞別を持ち、
左手に送る言葉が書かれた色紙をもったまま基地の営門から
出て行ったのだ。
彼が所属していたことと同様、退職したこともたいした話題にはならなかった。

64 :専守防衛さん:04/06/19 23:15
それが果たして正しかったのかどうか、僕には確信がもてない。
楽になったことは確かだとしても、13年満期を迎えようとした時に
いったい僕に何が残っているのだろうと考えるとひどく怖い。
僕が退職した後には思い出ひとつ残りはすまい。
「暗い心を持つものは暗い夢しか見ない。
もっと暗い心は夢さえも見ない。」
11年満期で退職した同期はいつもそう言っていた。
同期が辞めた夜、僕がまず最初にしたことは、当直室前の
人員掌握ボードの彼の名前の書かれたゴムのマグネット・プレートを
ゴミ箱に捨てることだった。
僕がそれをゴミ箱に捨てると同時に、彼が11年間抱き続けた夢は
まるで舗道に落ちた夏の通り雨のように静かに消え去り、後には
何ひとつ残らなかった。

65 :専守防衛さん:04/06/19 23:23
もしあなたが芸術や文学を求めているのならA幹の書いたものを読めばいい。
真の芸術が生み出されるには奴隷制度が必要不可欠だからだ。
曹士が隊舎を補修し、食事を作り、車両を操縦し、そしてその間に幹部は
事務所の中で文書作成に耽り、何度も推敲する。芸術とはそういったものだ。
夜中の3時に酔っ払って深夜入門記録を書くような人間には、それだけの
文書しか書くことはできない。
そして、それが僕だ。

66 :専守防衛さん:04/06/19 23:28
うざ・・・  負け犬

67 :専守防衛さん:04/06/19 23:34
「何故幹部が嫌いだと思う?」
その夜、鼠はそう続けた。そこまで話が進んだのは初めてだった。
わからない、といった風に僕は首を振った。
「はっきり言ってね、幹部なんて何も考えないからさ。一太郎と
フロッピーが無きゃ文書の印刷もできやしない。」
はっきり言って、というのが鼠の口癖だった。
「そう?」
「うん。奴らは大事なことは何も考えない。考えてるフリをしてる
だけさ。‥‥何故だと思う?」
「さあね」

68 :専守防衛さん:04/06/19 23:35
「必要がないからさ。もちろん幹部になるには少しばかり頭が要る
けどね、幹部であり続けるためには何も要らない。人工衛星に
ガソリンが要らないのと同じさ。グルグルと同じところを回ってりゃ
いいんだよ。でもね、俺はそうじゃないし、あんただって違う。
生きるためには考え続けなくちゃならない。ラジェーターの水漏れ
から体育館のシートの敷き方までね。そうだろ?」
「ああ。」と僕は言った。
「そういうことさ。」
「でも結局はみんな定年する。」僕は試しにそう言ってみた。
「そりゃそうさ。みんないつかは定年する。でもね、それまでに30年は
勤めなきゃならんし、いろんなことを考えながら30年勤めるのは、
はっきり言って何も考えずに5千年勤めるよりずっと疲れる。
そうだろ?」
そのとおりだった。

69 :専守防衛さん:04/06/20 00:17
たぶん僕は時代遅れなのだろう。でも僕は課業後の体育館でこつこつと
銃剣道を続けていた事を今でもとても懐かしく覚えている。
今は残念ながら、どの駐屯地を見てもあれほどの練成隊はない。
たまに中隊で銃剣道の教官をしてみるけど、
あれは僕にはあまりにも動きが忙しすぎる。
休憩するまでひと息いれたり、深呼吸をしたりという余裕がまったくない。
おい、たかが教官じゃないか、といつも僕は思う。
どうしてそんなに忙しくあっちみたりこっちみたりしなくちゃならないんだよ?
どうしていちいちそんな複雑にみなくちゃならないんだよ?

70 :専守防衛さん:04/06/20 00:18
僕は連成隊をやめて中隊に復帰したとき、木銃を営外室に持って帰って置いた。
営外室には小さなスペースがあったので、そこに木銃を置いて、
仕事に疲れるとときどき営外室に入ってぼうっと眺めていた。
でも不思議なことに、あの練成隊で小一本の鬼だった時のような
気迫は二度と戻ってはこなかった。
どうしてかは僕にはわからない。でも何かが違っていた。そう、空気が違うのだ。
どうしてだろう?自分という人間の種類が微妙に変化したのだ、
たぶん。

71 :専守防衛さん:04/06/20 00:28
気に入った

72 :専守防衛さん:04/06/20 09:28
名スレの予感・・・

73 :専守防衛さん:04/06/20 11:57
頼むから死んでくれ


74 :専守防衛さん:04/06/21 19:55
「たとえば」と僕は言って、天井を眺めた。
彼にものごとを理論的に説明するのは、意識がまともなときにだって
困難な作業なのだ。
「外付けHDDは保全意識の象徴だ。それはわかるね?」
「なんとか」と彼は言った。
「なんとかじゃない。実は通達でそう定められているんだ」
と僕はできるだけ冷静な声で言った。
「異論や疑問はあるかもしれないけれど、それをひとつの事実として
受け入れてくれないと、 話が前に進まない」

75 :専守防衛さん:04/06/21 20:19
「しかし」と彼は言った。
「例えそれが通達で定められていることであっても、
最終的にはそれを扱う人にこそ責任があるんじゃないですか?
外付けHDDを使用したからといって、完全な保全にはならないと思います」
まただ。彼は今現在しなければならないことと、たどり着くべき理想を
常に混同している。


76 :専守防衛さん:04/06/21 20:24
「それに大体」彼は少しばかり興奮しているようだった。
「『保全意識の象徴』だなんて、そんな形而上学的な概念は
理解しやすいとは思えません。
運幹は『保全意識の高揚』やら保全ポスターだの、あんなものに
少しでも効果があると思って保全係を兼務されているんですか?
僕には理解できない」
現実という点においては、彼の言い分の方が有利だった。
確かにその通りなのだ。

77 :専守防衛さん:04/06/21 20:31
僕はため息をついた。
「君の気持ちはわかる」
「いえ、わかってませんね」と、彼は僕の言葉をさえぎって続けた。
「だいたい、自分のアカウントとパスワードを書いた付箋紙を
ディスプレーに貼り付けている人たちが外付けHDDを使うことに
なんの保全効果があるんですか?
あの人たち週末には外付けHDDを持って帰りますよ、そのうち。
そんなくらいならノートパソコンなんて入れないで、全部デスク
トップにしてフロッピードライブにOBの名刺でも差しておいた方が
よほど保全効果があると思いますよ」
僕は怒るわけでもなく、ただそこにいる彼を眺めた。

78 :専守防衛さん:04/06/21 20:33
「すみません、言い過ぎました」
彼は言いたいことを言ってしまうと、少し落ち着いたようだ。
「いや、いいんだ。気持ちはわかるよ」
彼は一瞬何か言おうとしたが、あきらめたようだった。

79 :専守防衛さん:04/06/21 21:08
(・∀・)イイ! 

うまいなぁ

80 :専守防衛さん:04/06/21 21:09
74さん、楽しませてもらってます。

僕は・君たちが・好きだ

81 :専守防衛さん:04/06/21 21:10
リレー小説じゃないですけど、こんなに2ちゃんで
はまったの初めてです。

82 :専守防衛さん:04/06/21 21:22
このスレは何人くらいが書いてるのかなぁ?
それぞれの立場の内面というか、普段は知ることの出来ないことを共有してる感じで、
普段の勤務じゃ見えない主観的なところが妙に面白いんだよね。
80さんがんがってください。

83 :専守防衛さん:04/06/21 21:26
私は仕事で出向く先々で休憩時間になるとそこで淹れたコーヒーを
飲ませてもらうのだが、美味しいコーヒーというのはまずない。
大抵はいきあたりばったりで買ってきたような間に合わせのコーヒー
だし、香りのよい一見高級そうなコーヒーでも実際に飲んでみると
がっかりしてしまう場合がほとんどなのだ。
私はつねづねコーヒー選びにはその職場の品位がにじみ出るものだと
−−−またこれはたぶん偏見だと思うのだが−−−確信している。
コーヒーというのは犯すことのできない確固としたひとつの世界なのだ。
しかしこれは良いコーヒーを飲んで育った人間にしかわからない。
良い本を読んで育ったり、良い音楽を聴いて育ったりするのと同じだ。
ひとつの良いコーヒーはもう一つの良いコーヒーを生み、悪いコーヒーは
もうひとつの悪いコーヒーを生む。
そういうものなのだ。

84 :専守防衛さん:04/06/21 21:28
最低でも空自が一人いますね(笑
ハルキ好き自衛官ってのもオツな気がします。
82さんも書かれてるんですか?

85 :高機動車の唄:04/06/21 21:39
四月の朝に
私は高機動車に乗って
通い慣れた道を
演習場へ向った
入ったばかりの高機動車
色はグリーン
フェンダーもバンパーも
みんなグリーン
ドアのノブさえ
やはりグリーン

86 :専守防衛さん:04/06/21 21:41
恥ずかしながら一部書かせていただいています
海の人も来ないですかね・・・

87 :専守防衛さん:04/06/21 21:48
やた〜! こういうやりとり初めてです!
86さんは陸の方ですか?
私はAです。
このスレ、私はとても楽しんでます。

88 :専守防衛さん:04/06/21 21:55
そです。面白いすね。
ただ、こういうやりとりは別のそういったスレでやったほうがイイかもしれませんし、
あんまり明らかにしない方がいいかもしれません。。
我々だけのスレではないので・・・

89 :専守防衛さん:04/06/21 21:56
らじゃ〜!

90 :専守防衛さん:04/06/22 20:15
「途中で何か飯が上がるでしょう?」
「あのまずくて干からびた戦闘糧食のこと?あんなもの
飢え死にしかけた馬だって残すわよ。
私ね、せっかく支援で朝霞に来たんだから、池袋あたりで食事がしたかったの」
「そんなこと言ってると自衛官に向いてないと思われますよ」
「いいわよ、もうすぐ私任満だもの」とレイコさんは言った。

91 :専守防衛さん:04/06/22 20:36
掘るんだよ。

状況中はとにかく掘り続けるんだ。
小隊長の言ってることはわかるかい?掘るんだ。掘り続けるんだ。
なぜ掘るかなんて考えちゃいけない。意味なんてことは考えちゃいけない。
意味なんてもともとないんだ。そんなこと考え出したら手が停まる。
一度手が停まったら、もう小隊長も何ともしてあげられなくなってしまう。
指揮の繋がりは何もなくなってしまう。永遠になくなってしまうんだよ。

92 :専守防衛さん:04/06/22 20:37
そうするとおまえは臨時勤務の世界の中でしか生きていけなくなってしまう。
どんどん臨勤の世界に引き込まれてしまうんだ。
だから手を停めちゃいけない。どれだけ馬鹿馬鹿しく思えても、
そんなこと気にしちゃいけない。きちんとエンピを踏んで掘り続けるんだよ。

93 :専守防衛さん:04/06/22 20:37
そして固いところは少しずつでもいいから掘っていくんだよ。
まだツルハシもあるはずだ。使えるものは全部使うんだよ。
ベストを尽くすんだよ。怖がることは何もない。
おまえは確かに疲れている。疲れて、堪えている。
誰にもそういう時がある。何もかもが間違っているように感じられるんだ。
だから手が停まってしまう。

94 :専守防衛さん:04/06/22 20:38
でも掘るしかないんだよ。
それもとびっきり上手く掘るんだ。みんなが感心するくらいに。
そうすれば小隊長もおまえのことを、引きあげてやれるかもしれない。
だから掘るんだよ。

状況の続く限り。

95 :専守防衛さん:04/06/24 00:19
日曜日の横須賀中央は防大だか武山だかの制服でいっぱいだった。
彼女は左手でショルダー・バッグのストラップを握り、
右手で僕の手を取って、そんな自衛隊の人混みの中を
するすると抜けていった。
「ねえワタナベ2尉、攻撃における牽制と抑留の違いをきちんと
説明できる?」と突然僕に質問した。
「できると思うよ」と僕は言った。
「ちょっと訊きたいんだけれど、そういうのが日常生活の中で
何かの役に立ってる?」
「日常生活の中で何かの役に立つということはあまりないね」と僕は言った。
「でも具体的に何かの役に立つというよりは、そういうのは
物事をより系統的に捉えるための訓練になるんだと
僕は思ってるけれど」
彼女はしばらくそれについて真剣な顔つきで考えこんでいた。
「あなたって偉いのね」と彼女は言った。

41 KB
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

★スマホ版★ 掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50

read.cgi ver 05.02.02 2014/06/23 Mango Mangüé ★
FOX ★ DSO(Dynamic Shared Object)